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東京地方裁判所 平成4年(ワ)22166号 判決

原告 サービスエンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役 藤森研一

右訴訟代理人弁護士 村井正義

被告 不動産総合サービス株式会社

右代表者代表取締役 児島聖明

右訴訟代理人弁護士 遠山秀典

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二一九万一一〇五円及びこれに対する平成四年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告から金員を借り受けた原告が、原、被告の変動金利の約定に反して利息を過払いしたとして、過払分の返済を不当利息返還請求権に基づき求める訴訟である。

一  当事者間に争いがない事実

1  原告は、平成二年四月一九日、被告から金二五〇〇万円を別紙償還予定表≪省略≫記載の約定で借り受けたが、その際、被告は、七七万六七一二円を利息として天引きした(以下「本件契約」という。)。

本件契約において、利息については、年利一〇・五%パーセントが標準利率となっているが、「公定歩合の引上げ等金融情勢の変化、その他相当の事由がある場合には、一般に行われる程度のものに変更されることに同意します。」と定められていた(以下「本件利息約定」という。)。

2  原告は、被告に対し、本件契約に基づく利息、元金の弁済として、別紙「明細表」≪省略≫の「返済月日」及び「返済金額」欄記載のとおり、支払った(以下「本件各支払」という。)。

二  原告の主張

1  本件利息約定は、公定歩合の変動に伴い金利も一般に行われる程度のものに変更せしめる金利の変動制を定めたもので、被告が自己に有利な場合に限り一方的に金利を変動せしめる趣旨ではない。

本件利息約定が被告において公定歩合が上がった場合に利率を上昇せしめ公定歩合が下がった場合にも上昇時の利率を保持せしめる趣旨だとすれば、信義則並びに公平の原則に照らして無効というべきである。

2  本件契約には、本件利息約定が存するから、被告としては、公定歩合の変動その他により金利情勢の変化が生じた場合、他の金融機関が一般に行っているのと同程度の利率変動を行い、それによって元利金合計額を決するべきである。

3  そこで、(1) 平成二年四月一九日から平成三年八月までの公定歩合の変動とこれに伴う主要金利の推移として「全国銀行貸出約定平均金利」については、東京都労働経済局「経済・労働統計年報」(平成三年度)「主要金利の推移」により、(2) 平成三年九月から平成四年六月までの公定歩合の変動とこれに伴う主要金利の推移については、日本銀行調査統計局(平成四年九月)「経済統計年報」〔公定歩合〕〔貸出約定平均金利〕中、全国銀行の金利により、原告が被告に支払うべき利息の利率を算出し、元金への充当等を計算したのが別紙「明細表」<省略>であって、これによれば、原告は、最終弁済時である平成四年六月一〇日の時点で金二一九万一一〇五円を過払している。

4  なお、被告は、原告が一2記載の利息、元金を任意に支払っていると主張しているが、右は、原告がこの種の利率変動制や元金充当の問題について正確な知識を持ち合わせなかったために被告のいう金利の算出が正確かつ合理的なものと信じて支払ったにすぎない。

三  被告の主張

1  原告は、被告の主張する金利により算出された利息金を任意に支払い、原告と被告との間で清算も済んでいるのであるから、被告は原告の金利変更を同意していたものと考えられ、かつ、その利率は利息制限法の制限利率を超えないから元金充当は生じない。

2  仮に利息制限法の制限利率を超えることがあっても、被告は、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)による登録を受け、貸金業を営んでいるものであり、契約の締結時及び金員の支払時に同法一七条、一八条の要件を満たした書面を原告に交付し、かつ、原告の被告に対する利息、天引は原告の承諾に基づく任意のものであるから同法四三条一項のみなし弁済に当たり、被告としては給付を保持しうる。

第三争点

一  本件利息約定が原告が第二・二1で主張するような趣旨の約定であるか否か(本件利息約定の趣旨)。

二  本件利息約定の有効性

三  一、二の判断如何により、本件利息約定を前提とした適正利率

四  仮に利息制限法の制限利率を超えることがあった場合、被告としてはその給付を保持しうるか。

第四争点に対する判断

一  争点一について

1  本件契約に本件利息約定の存することは、当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いがない事実に、原本の存在、成立ともに争いのない≪証拠省略≫、成立に争いのない≪証拠省略≫並びに証人青山繁治の証言を総合すれば、本件利息約定は、本件契約の契約書(≪証拠省略≫、以下「本件契約書」という。)の第一条(5)に記載のあること、本件契約書は、原告及びその連帯保証人である藤森研一が被告に差し入れるという体裁をとっていること、そして、本件利息約定の文言も「変更されることに同意します。」という言葉を用いていること、原告は、指定口座からの引き落としという方法で利息を支払うことになっていたが、その引き落としができないこともあり、被告方への持参または送金という方法もとられたこと、いずれの支払の際も、被告は、「ご計算書兼領収書」と題する書面を送付ないし交付して、受領した金員の内訳について説明するとともに、次回の支払うべき金額を明示し、かつ、その際の利率も表示していたこと及び被告は、原告に対し、本件各支払をなすに当たり、異議等を述べることがなかったことが認められる。

3  以上の事実を前提に、本件利息約定の趣旨を案ずるに、本件利息約定は、被告が原告に差し入れた体裁の本件契約書に記載され、その文言も「変更されることに同意します。」というものであって、「受け身」の体裁をとっており、文言からみる限り、その変更の主体は、被告であると認められ、原告は、本件利息約定により被告による利率の変更を包括的に承認する趣旨を表明したものと認められる。現実にも、被告が利率の変更を「ご計算書兼領収書」と題する書面で原告に指示しているのであり、原告もこれに異議なく、応じており、利率の変動に同意しているものと推認される状況にある。そして、金融機関が利率を変動せしめる変動制は世情少なからず存しており、原告の主張するように、本件利息約定の趣旨が「公定歩合の変動に伴い金利も一般に行われる程度のものに変更せしめる金利の変動制を定めたものである」とすると、原、被告との間に見解の相違等により利息が容易に定まらない事態も招来しかねず、貸金業者である被告がそうした約定を締結しているとは認め難いというほかない。以上の判断によると、本件利息約定が原告の主張するような約定であるとは認められない。

4  よって、争点三については判断の要をみない。

二  争点二について

本件利息約定が被告において利率を定める趣旨であっても、その利率の定めが暴利行為等に該当しない限り、契約としては有効と解するのが相当であるところ、その利率の変動も前掲≪証拠省略≫によると、一〇・五パーセントから一四パーセントまでの間で変動しているにとどまると認められるうえ、先に認定したとおり、原告は右利率の変動に応じて利息を支払い、右の利率の変動を容認していたと認められ、証人青山繁治の証言によれば、被告が公定歩合が下がり気味であったにもかかわらず、利率を上げたのは、いわゆるバブル経済の崩壊により銀行等が被告のようなノンバンクへの貸出金利を上げたことが一因であると認められ、被告が本件契約の利率を上げたのも、了解可能な面があるのであって、こうした事情に照らして考えると、本件利息約定に基づく利率の変更が暴利行為に当たり、無効であるとは認めがたく、他に原告の主張するように信義則並びに公平の原則に照らして本件利息約定が無効であると認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件利息約定が無効であるとの原告の主張は理由がない。

三  争点四について

1  原告が平成二年四月一九日に被告から金二五〇〇万円を借り受けた際、被告が七七万六七一二円を利息として天引きしたことは、当事者間に争いがなく、前掲≪証拠省略≫及び証人青山繁治の証言によれば、右天引利息は、右借入日から同年八月五日までの一〇八日間に対応するものであると認められる。

そこで、利息制限法二条、一条に基づき、元本充当が生ずるか否かを計算しても、天引利息額は、次式で算出された一〇七万五一一五円を超えないから、元本充当は生じない。

2422万3288円×0.15×108/365=107万5115円(一円未満切捨)

2  最終弁済日を除き、その後の利率については、前掲≪証拠省略≫によると、いずれも利息制限法の制限利率内の利率(遅延損害金の利率も含む。)であると認められるので、元本充当は生じない。

3  被告が原告から平成四年六月六日に元利金の支払として二五六三万六三三一円を受領していることは当事者間に争いがない。

そして、前掲≪証拠省略≫によると、右の内訳は二四四一万五五五四円が元金の支払であり、一二二万〇七七七円が違約金であると認められるところ、前掲≪証拠省略≫及び証人青山繁治の証言によれば、右違約金は、本件契約書の四条(2)によるものと認められる。

右違約金も利息制限法三条により利息と見做されるが、前掲≪証拠省略≫、原本の存在、成立ともに争いのない≪証拠省略≫及び証人青山繁治の証言によれば、被告は、貸金業法による登録を受け、貸金業を営んでいるものであり、契約の締結時及び右金員の支払時に同法一七条、一八条の要件を満たした書面を原告に交付しており、また、原告が平成四年六月六日に二五六三万六三三一円を支払うに際しては、和解書をも作成していることが認められ、したがって、原告の被告に対する右支払は原告の承諾に基づく任意のものであると認められるから同法四三条一項のみなし弁済に当たると認められる。

したがって、被告は前記給付も保持しうることは明らかである。

第五結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由がないから棄却を免れない。

(裁判官 深見敏正)

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